〔開催報告〕資料研究会
コロナ禍の時代における公害資料の有する意義について
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日時:2020年10月29日(木)14時~16時30分
開催方法:オンライン、会員限定、参加費無料
当日参加者:12名
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▶ 趣旨
新型コロナウイルス感染症と公害問題は質が異なりますが、公害資料を整理・閲覧していると現在のコロナ禍をめぐる様々な現象と共通する側面があることに気付かされます(差別や隔離の問題、被害の軽視あるいは無視、産業優先との関係、医療の問題、補償の問題等)。
コロナ禍の時代、公害資料から何を学ぶことができるのか、人々はこれまで個別の現象にどう対処し解決していったのか等、公害資料はわたしたちに様々な示唆を与えてくれる可能性があります。
研究会ではまず現在の様々な現象に通底するような資料をご紹介いただき、その後のグループディスカッションにて、会員各館所蔵資料や利用者の立場等から、コロナ禍における公害資料の保存や活用の意義を考えてみました。
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▶ プログラム
14:00-14:05 開会挨拶、趣旨説明
14:05-14:25 報告1
川田恭子さん/薬害スモン関係資料
長谷川達朗さん/サリドマイド事件関係資料
(法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ)
14:25-14:45 報告2
蜂谷紀之さん/資料で考える水俣病(元国立水俣病総合研究センター)
14:45-15:00 報告への質問
15:00-15:30 グループ別ディスカッション
15:30-15:50 グループ別意見発表
15:50-15:55 コメント
15:55-16:00 閉会挨拶
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▶ 報告
1 環境アーカイブズ所蔵薬害資料(川田・長谷川)
「もしコロナのワクチンで薬害が起きたら?」をテーマに、薬害スモン被害者の全国組織「スモンの会全国連絡協議会」寄贈の「薬害スモン関係資料」からビラ2点、サリドマイド被害の支援者でありジャーナリストである川俣修壽氏寄贈「サリドマイド事件関係資料」から薬害被害者の声を記した手記が1点紹介されました。
薬害スモン(SMON 1955頃~1970年発生)では、胃腸薬キノホルム剤による被害を受けた人が診断書だけでは「被害者」として認められず、救済対象にならないという問題が生じました。認定には「投薬証明書」という、医師によるなにをどのくらいの期間投薬したかを証明する紙が必要でした。紹介資料中には「線引きは絶対にゆるさない!-投薬証明書あっても、なくても深刻な被害は変らない。」や、認定作業の遅れのために救済が保留された数千人の水俣病患者に言及した「水俣病の誤りをくり返すな」というメッセージがあります。今後、新型コロナウイルス感染症ワクチンで薬害が起きないとも限りません。証拠としての記録を取っておくこと、薬を認可する国の責任を明確にすること、薬害を繰り返さない救済システムの構築が重要です。
サリドマイド事件では、つわり止めとしても使われたサリドマイド含有薬剤が1958年に販売開始、1962年に薬品回収が行われたが不徹底だったため1969まで被害発生、1974年に和解が成立しました。「被害者」として認定され補償を受けることは重要です。しかしながら、直接的に被害を受けた胎児が、後遺症や障害と向き合いながら、ときに地域社会の「他者」として一生を生きていかねばならないことに変わりはありません。報告では薬害被害者の「その後」に着目し、その手記が紹介されました。「私は十五歳の時、サリドマイド被害者と認定されて、間もなく複雑な心境に陥った。今まで奇形児として、差別、偏見を受けて生きてきた十五年と被害児として生きるこれからに、何の違いがあるのかと考えた」。一度被害が生じてしまったら、たとえ社会的には解決できたとしても、心と身体を癒すことがとても難しいと痛感しました。
2 資料で考える水俣病(蜂谷)
水俣病の事件史に関連する患者の映像、認定件数・申請者数グラフ、自治日報、水俣時事新報 等の資料が紹介されました。1968年、水俣病は公害病として認定されます。そして1970年前後の水俣は、訴訟により補償を求める訴訟派、補償問題処理を国に委ねる一任派、加害企業チッソとの直接的対話を目指す自主交渉派、チッソの経済的・社会的恩恵を訴え患者の行いを批判する市民らが隣近所に住むという、一つの地域社会が分断された苦しい状況にありました。
資料からは、大多数の生活のためには住民のほんの一部に関わる公害の事実を隠し、被害が生じても仕方ない、といういのちを序列化するような官僚側の見解(自治日報)や、自主交渉派を「水俣市を暗くしている十七人」とする表現(水俣時事新報)が見られました。エビデンスに基づく医療・医学・政策立案が重要であると同時に、患者や市民への差別をはじめとする公害がもたらした経済的・社会的影響にも目を向ける必要があります。
▶ グループ別ディスカッション
・新型コロナウイルス感染症について、行政機関などで市民の声を残しておくことが大切。SNSも記録の蓄積になる。
・コロナ禍の問題と公害の展開過程がよく似ている。どのような政策や責任が取られたか、隠蔽のための論点ずらしはないか、その記録や資料をどう残すのかが重要。その都度の記録を通して問題を考えることができる。
・長期化するかもしれず、公文書やカルテの保存期間を超えるかもしれない。
・実態を十分に把握できておらず、公表されていない事実がある段階で議論が行われている点が共通。
・各資料館で教訓を伝えることも大切だが、自館の資料にも調査できていない課題や隠れた資料があるかもしれない。学会などと連携し、新たな現状から見えるそれらの課題を発信していく必要がある。
・水俣の問題に関連し、個人や家族の生活を守るために市民間で攻撃性が出た点は共通。また、地方が軽視/差別された公害問題に対し、コロナ禍では都市部が差別されている新しさ。
・資料を提示するとき、国と被害者の二項対立だけを見せてしまうと、自分たちの加害性への想像力をとざしてしまう。市民間でも問題は起きており、差別する側にもされる側にもなる可能性がある。
・被害者の間での分断が広がっている。給付金や「夜の街」など、政府の政策による部分もあるが、市民が自分の感度を上げて過去の営みから学び、分断への対処を考えることが大切。
▶ まとめ
場所を越えたオンラインにて、資料画像をみんなで共有しいろいろと議論することができました。過去(&現在進行形)の公害資料からコロナ禍の時代に対するヒントを得ると同時に、現在生じている問題から各館の資料を見直していくことができそうです。
(報告:香室結美)
■本研究会は、独立行政法人環境再生保全機構の地球環境基金の助成をうけ開催しました。
公開日時 : 2020年11月19日 【研究会】