2022年10月29日(土)13~16時に、オンラインで資料研究会を開催しました。
今回の資料研究会では、熊本大学文書館の香室結美さんにご報告いただき
蜂谷紀之さん、菅真城さんにコメントをいただくとともに
参加者から、さまざまなご意見をいただきました。
その開催報告をネットワーク会員の
北浦康孝さん(広島大学文書館)が書いてくださいました。
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資料研究会に参加して
広島大学文書館 北浦康孝
私が公害資料館ネットワークの会員になってからまだ一年ほどであるが,各公害資料館やネットワークの活動に参加して感じるのは,その記録を残して,個人や家族・地域の権利を守るとともに,現在および将来に公害の実相とそれを取り巻く社会のあり方を伝えていこうとする強い意志である。
今回の香室氏による報告も,水俣病の当事者や関係者・資料所蔵者らの思いに応えようと,そのあり方を模索しながら活動する熊本大学文書館の現状と課題を紹介するものであった。以下,同じ大学の文書館に勤める者の立場から所感を述べたい。
熊本大学文書館は現在,水俣病関係資料を含む,地域に係わる資料の収集アーカイブ機能を果たしているという。「収集アーカイブ」とはさまざまな組織・個人から資料を集めて整理し公開することをいう。それに対して,行政機関や大学・企業といった組織の資料を同組織の施設で移管・保存・公開することを「組織アーカイブ」という。国立大学の文書館は大学の公文書を保存する組織アーカイブを核とすることが多い。しかし,一般的に行政よりも自由度が高く,研究機能をもつ大学のアーカイブが,収集アーカイブ,しかも熊本大学のように地域にまつわる資料を対象にその役割を担う意味もまた小さくないと考える。もちろん,地域の資料について恣意的な収集は許されないし,資料の公共性を考慮して他の資料保存施設と受入先を調整することは不可欠である。しかし,所蔵者の思いを最もよく社会に伝えるにはどうすべきか,他に適切な受入先があるのか。これらを十分に検討した上で,大学アーカイブが積極的な役割を果たすことは重要である。香室報告を聞きながらそのように感じた。
また,個人情報の公開判断をめぐる議論にも考えさせられるものがあった。具体的な個人名を伴った記述や語りはより強い訴求力を持つので,その非公開は時に所蔵者らの思いに反する場合があろう。一方で,公開を望まない当人や家族などの思いもまた存在する。公害に関する資料では,いずれの思いもとりわけ強く現れるであろう。資料を提供する者にとって,形式的な判断に傾かず,個人情報保護の理念に従って自問自答を繰り返しながら,理論的な根拠をもって公開の適否を判断することの大切さ。議論を聞き,そして自らの業務を振り返りながら,そのようなことを考えた。香室氏はまた,所蔵者などとの応答の中から新たな関係性が生み出されていくのではないかと述べた。自問と他者との応答。当たり前ではあるが,これを怠ってはならないのであろう。
最後に熊本大学文書館への期待を述べておきたい。参加者からの意見にあったように,水俣病の実相を継承していくには,資料の収集のみならず,行政に対して公文書の適正な公開を求めることが大切である。そして,言うまでもなくこれは公害問題に限ったことではない。そのように考えると,熊本大学文書館には,収集アーカイブのみならず,同大学の公文書を適正に移管・保存・公開する組織アーカイブの役割も期待せざるを得ない。現段階でそれは将来的な課題に止められているが,そのようなアーカイブ構築の積み重なりが,ひいてはアカウンタビリティ(挙証説明責任)を当然とする社会の実現へとつながるはずである。熊本大学で組織アーカイブを担うことができるのは文書館をおいて他にないのである。
公開日時 : 2022年11月14日 【研究会】