〔開催報告〕公害教育研究会:コロナ禍の中での公害の学び ー「現地に行って学ぶこと」の困難にどう向き合うかー

〔開催報告〕公害教育研究会
コロナ禍の中での公害の学び
ー「現地に行って学ぶこと」の困難にどう向き合うかー
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日時:2020年8月23日(日)14:00-16:00
参加費:無料
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 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題となり、公害の学びが大切にしてきた「現地に行って学ぶこと」が困難となり、オンラインでの学びに切り替えざるを得なくなりました。
 そこで、コロナ禍の中で公害資料館がどのような対策をとってきたのかを情報共有しながら、公害教育に関わり、そして、関心を持つ人たちから公害教育の魅力について語り合う時間を持つことにしました。
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▶︎登壇者(登壇順)
・葛西伸夫さん(水俣病センター相思社)
・藤原園子さん(みずしま財団)
・平野泉さん(立教大学共生社会研究センター)
・小川輝光さん (神奈川学園中学校高等学校)
・丹野春香さん (東京医科歯科大学特任研究員)
・川尻剛士さん (一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
司会 古里貴士さん(東海大学)
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▶︎事例報告は3例、伺いました。
<相思社の取り組み>
 一つ目の事例報告として、葛西さんから水俣病センター相思社の取り組みについて報告してもらいました。
 コロナウイルスの影響がで始めた頃に、ちょうど不備があった相思社のOPACのシステムが回復して、資料検索ができるようになったことで、資料のコピー提供ができるようになったこと。また忙しい時にはできない資料整理など、できてよかったと報告がありました。
 また、埼玉大学の安藤聡彦先生のゼミとコラボして、「オンライン合宿」を開催したことを紹介してくれました。27人と生中継でつなぎながら水俣の街案内を行ったそうです。オンライン配信で合理的で、言いたいことが言えたけえれど、ライブでは相手の表情が見えてアドリブがあったり、ノイズや匂いなどは伝わらず、代替物にはならないのではないかとのことでした。

<みずしま財団の取り組み>
 二つ目の事例報告では、藤原さんからみずしま財団の取り組みについて報告してもらいました。
 みずしま財団もコロナウイルスの影響で、予定されていたフィールドワークの受け入れが中止になってしまいましたが、こういう時だからこそ調査はできるのではと思い立ち、高梁川流域川ごみ調査(倉敷市委託事業)、漂着ごみ調査(岡山県委託事業 )などに取り組み、
 また動画を作成し、高校生に学びを届けることならできるのではと、高梁川流域地域づくり連携推進事業「地域からの発信!高校生と生物多様性をつなげるプロジェクト」(倉敷市事業採択)として動き出したとのことでした。
 2019年に公害資料館ネットワークと一緒に公害資料館連携フォーラムを倉敷で開催しましたが、その報告書がちょうどできた時期とコロナの時期が重なったので、それらの報告書を元に、水島の公害を学ぶことを影響をかけていくことを医療機関などに働きかけたこと、水島の公害の学びのことが岡山県観光連盟教育旅行パンフレット掲載されていることから秋からの研修の問い合わせが来ており、その対応をするなど、コロナの時期を準備の時間と捉えてこれからの対策を考えた様子について報告されました。

<立教大学共生社会研究センターの取り組み>
 3つ目の事例報告は平野さんから立教大学共生社会研究センターの取り組みを報告してもらいました。
 公害だけにとどまらない多様な市民の社会運動の資料が保存活用されているセンターで、「公害」という現地を持っていないアーカイブズということになります。コロナウイルスの緊急事態宣言で閉館となり、スタッフ全員が在宅勤務となり、オンライン発信やオンライン利用受付などをしてみたが、主たる利用者である学生や研究者が忙しすぎてあまり反応はなかったとのこと。
 そこで、この報告では、改めて「アーカイブズとは何か」を考え、「アーカイブズを学びに生かすとは」について問う発表をしていただきました。
 アーカイブズとは「個人や組織が、日々、仕事の必要に応じて作成したり、受け取ったり、ファイルしたりする文書や記録の総体」と説明があり、そのアーカイブズを利用して研究だけでなく、教育に役立ちたいとのことから、A. 「アーカイブズ」って何だろう? B. 資料を読む C. グループでわかったことを全体で共有 と3段階の工程をもとに教育を行なっていること、その授業の中で「市民活動のアーカイブは、人を死なさないと感じた。」(2019-01-08宇井純資料を使ったクラスに対する学生のコメント)が紹介がありました。
 アーカイブズを学ぶとは、「頭で理解するand/or感情で受け止める」大切さ、「今、ここにはいない誰か」とともに学ぶことを可能にするアーカイブズ資料=どこでもドア」である可能性を秘めていることを報告されました。

▶︎利用者の声として3者から報告がありました。
<利用者側から>
 高校の教員である小川さんからは、コロナウイルスの影響で毎年行なっていた水俣でのフィールドワークができなくなったこと。この水俣のフィールドワークでは「人間の尊厳」や「豊さの本当の意味を考える」ことを大切にしており、人との出会いから学びを作ってきていたが、コロナウイルスのおかげで人と人が会えないことでの困難であるが、これを機に、これまでとは違う各地とつなぐこともできるのではないかと模索していきたいとの希望が語られました。
 大学生の時から水俣について学び、現在は大学での教育の中でその経験を生かしている丹野さんからは、水俣での学びは「一人で出会っていたらやめていた」かもしれないと語りました。
 また共に学んだ仲間がいたことが現在につながっていると言います。利用者側として「映像」が欲しい、「からだ」を感じながら共に学ぶことが難しいことが述べられました。
 現在大学院生の川尻さんからは、「私が公害問題に関心を持つようになったきっかけは、公害問題の中を生きてきた人びと――水俣病患者をはじめとして、患者に寄り添って生きてきた方たち――の『苦悩(suffering)の創造性』とでもいうべきものに惹きつけられたことだと思う」との話から、本気で語る先輩たちの言葉に「自分の言葉」をもっていることに引き付けられたことの紹介。また現地に行けない困難の中で、相思社の『ごんずい』の中の資料紹介に助けられたこと、オンラインで逆に出会いが増える可能性などが述べられました。

▶︎<討論内容>
 報告者が多くなったことで、議論の時間が短くなりましたが、参加者からは、公害問題を戦ってきた先人から「次の世代に引き継いで欲しい」と言われたバトンが若い世代に引き継がれていることを実感して元気が出たこと、「学びを止めてはいけない」ということや、「昔に戻れない」とコロナ前には戻れないことを受け止めて、どのようなことに取り組んでいくかをみんなが考えようと意見が述べられました。
 また、現地に行けなくて現地の大切さを一層感じる、五感で感じつことの大きさについて意見が述べられ、その後、海の濃さや塩の匂いについて各地の違いについて意見交換がありました。
 公害資料館を利用する立場(大学教員)からは、学生が自分で見にいく・調べる資料の方が感動することから、できるだけオンライン上で読める資料が多くあって欲しいとの要望が出されました。
 北九州からの参加者からは、海外からの公害教育の需要あることから、多言語発信についての情報交換が行われました。
 藤原さんから「私は公害を知らない世代への「中継ぎ」をしている」との発言があり「共に学ぶこと」の意義に、資料が仲介役になるのではないかとの発言があり、平野さんが呼応するように「過去の資料を資料を使って過去を想起する」ことのサポートを資料館がすることになると述べられました。
 最後に、司会の古里さんから「公害教育は幾層に分かれていて、自身を問い直す学び」になることをコメントをして、研究会を閉じることとなりました。

▶︎<参加者からの感想 一部紹介>
・オンラインでできる・やりやすいこと、と現地だからこそ得られるもの(ノイズ、五感など)があるという整理ができたのはよかったです。これからオンラインを使うことで公害資料館や公害問題をより多くの人に知ってもらえる広い窓口のような役割を果たしていくのだと思います。その際、オンラインで得られるもの以上に、もっと学びたいという思いや直接学びたい(お話を聞きたい、資料をみたいなど)という学びの「余韻」(小川先生のご発言)をつくりだせるのかが大事なのだと思いました。オンラインから現地への学びに誘うための働きかけをどのようにするのかが問われてるのだと感じました。
・オンラインとオンサイト(?)のそれぞれの利点や欠点が少し整理できたように思います。大学でもオンライン授業を半年やってきましたが、オンラインだから深まる思考もあったと思います。ただ、やはり人間や場所の「存在」のリアリティをオンラインで感じることが難しいのだなと思いました。平野さんが資料が「どこでもドア」とおっしゃっていたのが面白いと思いました。資料がそのリアリティを感じる一つの手掛かりになるのかなと思います。
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 現地に行くこと、現地に行けない中で何ができるかについて考える中で、アーカイブズの重要性に気がつけたのも、今回の研究会の収穫だったと思います。
 参加者は55名で、フォーラムの分科会以上に人が集まる可能性があることがわかったことも大収穫でした。
 引き続き、議論を続けていけるように工夫していきたいです。
(報告:林美帆)

■本研究会は、独立行政法人環境再生保全機構の地球環境基金の助成をうけ開催しました。

公開日時 : 2020年10月01日 【

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